ニュージーランドのラグビーというと、オールブラックスやスーパーラグビーを思い浮かべる人が多いかもしれません。
でも、オールブラックスがニュージーランドラグビーの世界的な「顔」だとすれば、もっと地域の身近なところにあるのが クラブラグビーです。
週末になると地域のグラウンドに選手や家族が集まり、試合が終わればクラブルームに人が集まる。子どもから大人まで、選手だけでなくコーチやマネージャー、ボランティアなど、さまざまな人がラグビーに関わっています。
目次
- CHAPTER 1|まずクラブラグビーを知る
- CHAPTER 2|クラブラグビーはどうできている?
- CHAPTER 3|クラブは試合をする場所だけではない
- CHAPTER 4|クラブラグビーからNZラグビーを見る
- CHAPTER 5|クラブラグビーをたどる
最後まで読めば、オールブラックスだけを見ていると気づきにくい、もうひとつのニュージーランドラグビーがきっと見えてくるでしょう。
もしニュージーランドラグビー全体がどうなってるのかも気になる人は、以下をぜひ参考にしてみてください。
1. ニュージーランドのクラブラグビーとは?
クラブラグビーとは、ニュージーランド各地の地域にあるラグビークラブを中心に行われるラグビーです。
日本で「クラブチーム」と聞くと、ひとつのチームをイメージするかもしれません。
しかしニュージーランドのラグビークラブを見ると、それだけでは捉えきれません。
ひとつのクラブの中に、年齢やレベルの異なる複数のチームがあり、ジュニア、シニア、女子など、さまざまなカテゴリーのラグビーが行われているクラブもあります。
そして、その周りにいるのは選手だけではありません。
- コーチ
- マネージャー
- レフェリー
- 運営スタッフ
- ボランティア
- 家族
- サポーター
など、多くの人が関わっています。
つまりクラブは、単なる「ひとつのラグビーチーム」というより、地域の中で人々がラグビーに関わるための基盤のひとつとして見ると、その姿が分かりやすくなります。
ニュージーランドラグビー(NZR)も、強く参加しやすいクラブ、良い大会やリーグ戦、運営やサポートが、地域ラグビーを支える重要な要素であるとしています。
2. なぜNZにはこんなに多くのラグビークラブがある?
NZRによると、ニュージーランドには450を超えるラグビークラブがあります。
この数字からも、ラグビーと地域社会の距離の近さが見えてきます。
都市部だけではありません。
地方の町にもクラブがあり、ニュージーランド各地で地域の人たちがラグビーに参加しています。
ここで知っておきたいのが、グラスルーツ・ラグビー(地域に根ざした草の根レベルのラグビー)という言葉です。
ニュージーランドラグビーは、オールブラックスやスーパーラグビーだけで成り立っているわけではありません。
- 地域のグラウンドで行われる試合。
- 子どもたちのジュニアラグビー。
- 大人たちのクラブラグビー。
- そして、それを支える人たち。
そうした日常的なラグビーの積み重ねも、ニュージーランドラグビーの大きな土台になっています。
NZRは2022年、26の地域ラグビー協会とともに「The Future of Rugby Clubs」というプロジェクトを開始しました。約450のジュニア・シニアクラブを対象に、今後25〜50年を見据えてクラブラグビーの未来を検討する取り組みです。
クラブは、過去から続いてきた場所というだけではありません。
これからのNZラグビーをどう支えていくのかが、今も考えられている場所なのです。
3. ラグビークラブには誰がいる?
クラブラグビーを理解するうえで、もうひとつ大切なのが、
「ラグビーをしている人=選手だけではない」
ということです。
NZRによると、ラグビーシーズン中には毎週5,000を超える試合が行われ、16万人を超える選手、約1,600人のレフェリー、約13,000人のコーチが関わっています。
さらにフィールドの外では、20,000人を超えるマネージャー、ボランティア、運営スタッフなどがゲームを支えています。
たとえば、
- チームを指導するコーチ
- 練習や試合の連絡をまとめるマネージャー
- 試合を担当するレフェリー
- クラブを運営する運営スタッフや理事・委員
- グラウンドや施設を支える人
- フィジオ
- バースタッフ
- 子どもを送り迎えする家族
- サイドラインから応援するサポーター
など。
試合に出る選手だけを見ていると、クラブラグビーの一部分しか見えていません。
その試合が行われるために、どんな人たちが関わっているのか。
そこまで見ると、ニュージーランドのラグビーが地域コミュニティ(地域社会・そこに集まる人々)の中でどのように成り立っているのかが見えてきます。
4. クラブは誰と試合をする?
クラブラグビーでは、基本的にそれぞれの地域で大会が行われます。
ただし、ニュージーランド全国のクラブが同じ大会方式で戦っているわけではありません。
地域によって、
- 参加クラブ数
- グレード(カテゴリー・競技レベル)
- 年齢区分
- 大会の形式
などは異なります。
シニアラグビーでも複数のグレードが設けられ、上位レベルのリーグ戦がプレミアなどと呼ばれていることも多いです。
ここで重要になるのが、地域ラグビー協会(NZラグビーにおける地域ごとの統括組織)です。
ニュージーランドには26の地域ラグビー協会があり、それぞれの地域でクラブや学校に対してラグビーの運営やサービスを提供しています。
つまりクラブラグビーを見るときには、
「どの地域ラグビー協会の地域にあるクラブなのか?」
を見ると、NZラグビーの構造がさらに分かりやすくなります。
5. クラブと地域ラグビー協会はどうつながる?
オークランド、ワイカト、カンタベリー、オタゴなど、ニュージーランド各地にはそれぞれのラグビー地域があります。
そして、その地域の中にクラブがあります。
大きな構造として見ると、
クラブ
↓
地域のクラブリーグ戦
↓
地域ラグビー協会/州代表ラグビー
というつながりが見えてきます。
クラブラグビーを知ると、州代表ラグビーも単に「地域代表同士が戦う大会」ではなくなります。
その向こう側に、地域のクラブ、選手、コーチ、家族、ボランティアなど、多くの人たちがいることが見えてきます。
6. クラブラグビーはスーパーラグビーやオールブラックスとどうつながる?
クラブラグビーとトップレベルのラグビーは、完全に切り離された別々の世界ではありません。
地域のシニア・クラブラグビーで力を示した選手が、州代表ラグビーへ進む可能性もあります。
そしてスーパーラグビーのシーズン後に行われる州代表ラグビーでは、オールブラックスなどの代表活動に入らないスーパーラグビー選手が州代表チームでプレーすることもあります。
そのため、地域のクラブラグビーから力を示してきた選手が、より上のレベルではプロ選手と同じチームやリーグ戦の中でプレーする機会も生まれます。
もちろん、すべての選手が同じ道を進むわけではありません。
学校ラグビー、クラブラグビー、育成プログラム、州代表ラグビーなど、選手によって経験する環境や選手がより高い競技レベルへ進んでいく道筋は異なります。
それでも、
地域のクラブラグビーと、州代表、スーパーラグビー、その先のトップレベルまでが、完全に分断されているわけではない。
ここはニュージーランドのクラブラグビーを理解するうえで、とても面白いところです。
好きなオールブラックスやスーパーラグビーの選手ができたら、
「この選手は、どんな地域やクラブとつながってきたのだろう?」
とキャリアを逆にたどってみる。
それも、NZラグビーをたどるひとつの方法です。
7. クラブルームとは?
ニュージーランドのクラブラグビーを知るうえで、ぜひ知っておきたい言葉があります。
クラブルーム(クラブの活動拠点)です。
初めて聞くと、選手が着替える更衣室のようなものを想像するかもしれません。
しかし、クラブルームはそれだけではありません。
クラブによって設備や使われ方は異なりますが、試合後に選手や関係者が集まったり、クラブのイベントやミーティングが行われたり、人々が交流したりする場所でもあります。
グラウンドが「ラグビーをする場所」なら、クラブルームは「ラグビーを通じて人がつながる場所」のひとつ。
そう考えると分かりやすいかもしれません。
そして、これは単なる雰囲気の話ではありません。
2026年、NZRのレガシー・ファンドから18の地域のラグビークラブへ、合計約129万NZドルの施設助成が決まりました。
対象となったのは、クラブルーム、女性・女子用更衣室(女性・女子用更衣施設)、競技グラウンドなどの改善・開発です。
前年2025年の最初の施設助成でも、12の採択プロジェクトのうち7件が、女性・女子の参加拡大に対応する更衣室の新設・改善に関するものでした。
ここには、クラブラグビーの興味深い一面があります。
クラブラグビーを未来へ残していくためには、選手や試合だけを考えればいいわけではありません。
誰もが参加しやすい施設があること。
人が集まれる場所があること。
女性や女子も利用しやすい環境があること。
そうした「場所」そのものも、地域ラグビーを支えています。
クラブルームまで見ていくと、ラグビーがスポーツであるだけでなく、人々の活動やつながりを支える、地域の基盤のひとつでもあることが見えてきます。
8. クラブを支えるボランティア
クラブルームがあっても、グラウンドがあっても、それだけではクラブラグビーは動きません。
そこには、人が必要です。
ニュージーランドの地域ラグビーでは、20,000人を超えるマネージャー、ボランティア、運営スタッフがフィールドの外からゲームを支えています。
ボランティアというと、何か特別なイベントの手伝いを想像するかもしれません。
しかしクラブラグビーでは、もっと日常的です。
グラウンドを整える。
チームを管理する。
試合の準備をする。
クラブを運営する。
イベントを手伝う。
クラブルームを維持する。
そうした一つひとつの仕事によって、週末のラグビーが成り立っています。
テレビでオールブラックスの試合を見ているだけでは、なかなか見えない人たちです。
でも、その人たちまで視野に入れると、
「NZでは、なぜこれほどラグビーが地域に根づいているのだろう?」
という問いの見え方も少し変わってきます。
ラグビーをする場所があり、それを支える人たちが各地域にいる。
それも、ニュージーランドラグビーを理解するうえで重要な一面です。
9. 家族と地域コミュニティ
週末のクラブラグビーのグラウンドにいるのは、選手だけではありません。
家族、友人、クラブ関係者、地域の人たち。
ジュニアラグビーであれば、子どもを連れてくる保護者もいます。
試合をする。
応援する。
終わったあとに話す。
次の週にまた集まる。
こうした時間が積み重なって、クラブは単に「ラグビーをする組織」ではなく、人と人が継続的に出会う場所にもなっていきます。
もちろん、すべてのクラブが同じ雰囲気でも、同じ規模でもありません。
都市部の大きなクラブと、地方の小さな地域コミュニティにあるクラブでは、その姿も違います。
だからこそ面白い。
クラブを見ることは、その地域を見ることでもあります。
どんな人が集まっているのか。
どんなチームがあるのか。
どんな歴史を持っているのか。
どんな地域コミュニティとつながっているのか。
クラブラグビーは、ニュージーランドという国をラグビーから知るための、小さな窓にもなります。
10. 子どもたちはクラブでどうラグビーと出会う?
クラブはシニアラグビーだけの場所ではありません。
ニュージーランドでは、地域のクラブが子どもたちのジュニアラグビーを支える重要な場所にもなっています。
NZRのジュニアラグビーは、Year 1〜8の子どもたちを対象としており、年齢や発達段階に応じてラグビーを経験できる環境が用意されています。
そこには、タックルのないリッパ・ラグビーからコンタクトラグビーまでがあります。
子どもたちは地域のクラブで仲間と出会い、クラブのジャージーを着て、週末にラグビーをする。
つまりクラブは、
大人が週末に試合をする場所であると同時に、次の世代がラグビーと出会う場所でもあります。
ジュニアラグビーの詳しい仕組みについては、別の記事でさらに詳しく見ていきます。
11. 高校年代のラグビーとクラブラグビー
子どもたちが中等教育段階へ進むと、ラグビーを取り巻く環境も少し変わってきます。
ニュージーランドでは、ジュニア年代に地域のクラブでプレーし、中等教育段階になると学校ラグビーが大きなプレー環境となり、学校卒業後にシニア・クラブラグビーでプレーする、という流れがよく見られます。
クラブ → 学校 → クラブ
大きく見ると、このような流れです。
もちろん、すべての選手がこの流れを通るわけではありません。
高校年代年代にもクラブでプレーする選手はいますし、地域や学校、選手によって環境は異なります。
また学校ラグビーは、多くの高校年代の選手が仲間とラグビーを楽しむ場所であると同時に、競技力の高い選手にとっては、地域の選考や育成、年代別の代表ラグビーなど、さらに上のレベルへつながる機会が生まれてくる場所でもあります。
ここを詳しく見ていくと、学校ラグビー、クラブラグビー、地域代表、選手育成など、さらに大きな世界が広がっています。
それは高校年代のラグビーの記事で、さらに詳しく見ていきます。
12. 女子ラグビーとクラブ
クラブラグビーは、男子だけの世界でもありません。
ニュージーランドでは、女性・女子ラグビーも地域ラグビーの重要な一部です。
NZRはクラブ向けに、女性の選手、コーチ、ボランティアなどの参加を増やすための取り組みやリソースを提供しています。
先ほど見たレガシー・ファンドでも、女性・女子向け更衣室への投資が目立っていました。
ここにも、クラブラグビーを見る面白さがあります。
女性選手が増える。
必要な施設が変わる。
クラブの環境が変わる。
そこに集まる人が変わる。
そしてクラブそのものも変わっていく。
クラブは、昔からある伝統を残すだけの場所ではありません。
地域コミュニティの変化に合わせて、これからの形を作っていく場所でもあります。
13. NZでクラブラグビーを見るには?
ニュージーランドでラグビーを見るなら、オールブラックスやスーパーラグビーだけが選択肢ではありません。
地域のクラブラグビーを見に行くという楽しみ方もあります。
クラブラグビーの大きな魅力のひとつは、トップレベルのラグビーよりも地域との距離が近いことです。
- まずは、自分がいる地域の地域ラグビー協会やクラブを調べてみる。
- どんな大会やリーグ戦があるのかを見る。
- 週末の試合日程(試合日程)を確認する。
- 気になるクラブがあれば、そのクラブのウェブサイトやSNSを見る。
NZRにもクラブ検索が用意されています。
有名な選手を知らなくても構いません。
むしろ最初は、
「この地域では、こんなふうにラグビーが行われているんだ」
という目線で見るだけでも、スーパーラグビーとは違うNZラグビーが見えてきます。
14. 自分の地域のラグビークラブを知る
もしニュージーランドに住んでいるなら、自分の住んでいる地域のクラブを調べてみるのも面白いでしょう。
これまで名前すら知らなかったクラブが、意外と近くにあるかもしれません。
そして、そのクラブを調べていくと、
- どの地域ラグビー協会とつながっている?
- どんなチームがある?
- ジュニアラグビーはある?
- 女子ラグビーはある?
- どんな歴史がある?
- どんな選手がここから育った?
- クラブルームはどんな場所?
- 地域ではどんな役割を持っている?
と、次々に新しい疑問が出てきます。
これこそ、NZラグビーディスカバリーで大切にしたいたどり方です。
有名なものから順番に覚える必要はありません。
自分が気になった入口から入って、その先をたどっていく。
クラブラグビーは、その入口をニュージーランド各地に持っています。
15. クラブを知ると、NZラグビーがもっとつながる
オールブラックスを見る。
スーパーラグビーを見る。
州代表ラグビーを見る。
そしてクラブラグビーを見る。
ここまで降りてくると、それまで別々に見えていたNZラグビーの世界が少しずつつながってきます。
トップレベルの選手がいる。
その選手が育ってきた地域がある。
地域にはクラブがある。
そこにはグラウンドやクラブルームがある。
そして、それを支えている人たちがいる。
さらに、その周りには子ども、学校、家族、地域コミュニティがあります。
だからニュージーランドラグビーは、
オールブラックスを頂点にした一本のピラミッドとして見るだけでは、少しもったいない。
クラブ、学校、州代表、スーパーラグビー、NZ代表チーム。
そして、その間にいるたくさんの人々。
それぞれがつながったネットワークとして見ると、もっと面白くなります。
クラブラグビーを知ることは、そのネットワークの中にある「地域の日常」へ入っていくことです。
クラブラグビーからさらに地域のラグビー全体へ視野を広げてみたくなったら、次は州代表ラグビーをたどってみましょう。
