ニュージーランドのラグビークラブには、グラウンドのそばに「Clubrooms」(クラブルーム)と呼ばれるクラブハウスがあります。
中にあるのは、更衣室やバーだけではありません。試合が終わったあとにも、選手や家族、サポーター、クラブを支える人たちが集まることがあります。
この場所を覗いてみると、なぜNZのラグビークラブが単なる「ラグビーをするチーム」ではないのかが、少しずつ見えてきます。
目次
CHAPTER 1|クラブルームという場所を知る
1. クラブルームとは?
2. 中には何がある?
CHAPTER 2|試合の外にもClub Rugbyがある
CHAPTER 3|ラグビーの外へ開く場所
CHAPTER 4|「場所」からClub Rugbyを見る
最後まで読めば、クラブルームという一つの場所から、NZのClub Rugbyを支える人、歴史、地域とのつながりを、より立体的に感じられるようになるでしょう。
CHAPTER 1|クラブルームという場所を知る
1. クラブルームとは?
日本で「ラグビークラブ」と聞くと、まずチームやグラウンドを思い浮かべる人が多いかもしれません。
NZのローカルクラブへ行くと、そのグラウンドのそばにクラブルームがあることがあります。
簡単にいえば、クラブの活動拠点となるクラブハウスです。
ただし、その形は全国で同じではありません。
独立した建物を持つクラブもあれば、ほかのスポーツと施設を共有しているクラブもあります。
New Zealand Rugby(NZR)の「Future of Rugby Clubs」でも、従来型のラグビー単独のクラブルームだけでなく、複数のスポーツが施設を共有する形や、より広く地域に利用されるCommunity Hubの方向性が取り上げられています。
つまり、「クラブルーム」という名前だけを見ても、そのクラブでどんな使われ方をしているのかまでは分かりません。
建物そのものよりも、そこで何が起きているのか。
そこに目を向けると、クラブルームの面白さが見え始めます。
2. 中には何がある?
設備はクラブによって異なります。
例えば、クラブルームには次のような設備があることがあります。
- ラウンジや人が集まるスペース
- バー
- キッチン
- 更衣室やシャワー
- テレビやスクリーン
- ミーティングやイベントに使えるスペース
オークランドのAuckland University Rugby Football Clubでは、クラブ施設にミーティングスペース、バー、ラウンジ、商業用キッチン、更衣室・シャワーなどが備わっています。
同じオークランドでも、College Rifles Rugby Football Clubは、自らのバーとクラブルームについて、伝統的なラグビークラブらしい雰囲気を持ち、試合後の集まりや各種イベントにも使える場所として案内しています。
つまりクラブルームには、ラグビーをするための施設と、人が集まるための場所という二つの側面があります。
CHAPTER 2|試合の外にもClub Rugbyがある
3. 試合が終わっても、人は残る
ラグビーを「試合」として見ていると、ノーサイドになれば、その日のラグビーは終わったように見えます。
でもClub Rugbyでは、そのあとにもクラブの時間があります。
クラブによって過ごし方は違いますが、試合後に選手や関係者がクラブルームへ集まることがあります。
オークランドのCollege Riflesでは、現在もクラブルームのキッチンが「aftermatch functions」の際に使われると案内されています。
さらにPonsonby Rugby Clubでも、2026年のジュニア表彰式後に家族をクラブルームへ招き、選手やボランティアのコーチ、マネージャーらとシーズンを祝う案内が出されています。
ここで見えてくるのは、Club Rugbyがグラウンドの中だけで完結していないことです。
プレーする。
見る。
試合が終わったあとに話す。
シーズンを一緒に祝う。
そんな時間まで含めて、人がクラブと関わっています。
4. クラブルームに残るクラブの記憶
クラブルームには、もう一つの役割があります。
長い時間の中で、クラブの記憶が積み重なっていく場所になることです。
そのことがよく分かるのが、オークランドのEden Rugby Clubです。
クラブのPatronでLife MemberでもあるTom O’Hanlonは1948年にEdenへ加わり、1957年にはクラブルームの建設を手伝いました。
そして翌1958年には、そのクラブルームで自身の結婚式を挙げています。
さらに2021年、Edenがクラブ史上初めてGallaher Shieldを獲得した日には、大勢の人がクラブルームへ集まりました。
O’Hanlonは、自分が建設を手伝った床が心配になるほどだったと、その日の賑わいを振り返っています。
建物は同じでも、そこを通っていく人や出来事は変わっていきます。
建設に関わった人がそこで結婚し、何十年後にはクラブ史に残る勝利を仲間と祝う。
クラブルームは、クラブの歴史が人々の記憶と重なっていく場所にもなり得るのです。
CHAPTER 3|ラグビーの外へ開く場所
5. ラグビーだけの建物とは限らない
クラブルームは、ラグビーをする人だけが使う建物とも限りません。
ウェリントン地域のParemata-Plimmerton Rugby Football Clubでは、クラブルームをクラブメンバーだけでなく一般にも貸し出しています。
用途として案内されているのは、大人や子どもの誕生日、会議、Community Event、講座などです。
オークランド北西部のKumeu Rugby Football Clubも、自らの施設を「communityのためのvenue」と位置づけています。
スポーツチームの活動拠点だけでなく、地域のイベントや活動、誕生日、仕事関係の集まりなどにもクラブルームを利用できます。
これはすべてのNZラグビークラブが同じように施設を開放している、という意味ではありません。
ただ、ラグビーのためにつくられた場所が、ラグビーのない時間には別の目的で地域の人を迎える例が実際にあります。
ラグビーのために地域にある場所が、ラグビーのない時間にも地域とつながっている。
「Club Rugbyと地域」という関係は、こうした物理的な場所にも表れています。
6. クラブルームも変わり続けている
一方で、長く使われてきたクラブルームには課題もあります。
NZRの「Future of Rugby Clubs」Final Reportでは、施設の老朽化、修繕・維持・更新費、保険などの負担が、クラブルームを維持するうえで問題になっていることが指摘されています。
さらに、更衣施設をより多くの人が利用しやすいものにすることや、施設の利用率を高めること、ほかのスポーツや地域と施設を共有することなども将来に向けた論点です。
こうした変化は、すでに実際の投資にも表れています。
2026年7月、NZRのLegacy Fundは18のCommunity Rugby Clubに合計NZ$1,289,949.48を配分しました。
採択されたプロジェクトは、クラブルーム、女性・女子向け更衣施設、グラウンドの改善に関するものでした。
また、2025年の第1回Legacy Fundでも、12件中7件が女性・女子の参加増加に対応する更衣施設の新設・改修を求めるプロジェクトでした。
つまり、クラブルームの未来を考えるときに重要なのは、単に古い建物を新しくすることだけではありません。
これから誰がクラブへ来て、誰がその施設を使い、どんな人がそこに居場所を持てるのか。
施設の変化からも、Club Rugbyがこれからどんな人たちを迎えようとしているのかが見えてきます。
CHAPTER 4|「場所」からClub Rugbyを見る
7. クラブルームへ行くと見えてくるもの
ニュージーランドでClub Rugbyを見る機会があったら、グラウンドだけでなく、その周りにも少し目を向けてみてください。
クラブルームはどこにあるのか。
試合が終わったあと、誰がそこへ入っていくのか。
中にはどんなものが残されているのか。
選手だけでなく、家族や昔の選手、クラブを支える人たちもいるのか。
そして、その場所はラグビー以外の時間にどう使われているのか。
そんなところまで見ていくと、スコアや順位表だけでは分からない、そのクラブの姿が少しずつ見えてきます。
クラブルームは、それ自体がNZのすべてのClub Rugbyを説明してくれるわけではありません。
でも、一つのクラブを深く知るための入口にはなります。
グラウンドでは、ラグビーの試合が見える。
クラブルームまで目を向けると、そのラグビーを続けている人たちの時間やつながりまで見えてくる。
NZのClub Rugbyを知る面白さは、そんな試合の外側にも広がっています。
