NZのラグビークラブの「個性」|歴史とライバル関係から見るクラブアイデンティティ

同じ地域で、同じラグビーをしていても、クラブが変われば雰囲気は少しずつ違います。

ジャージの色、クラブに残る歴史、長年競い合ってきた相手、そして何世代にもわたって関わってきた人たち。

そうしたものをたどっていくと、「自分たちはこのクラブだ」という、そのクラブならではの個性がどう生まれてきたのかが見えてきます。

目次

CHAPTER 1|クラブにはそれぞれの歴史がある

1. 現在まで続く歴史あるクラブ

2. Club Identityとは何だろう?

CHAPTER 2|「そのクラブらしさ」はどこに見える?

3. クラブカラーにも歴史がある

4. 人の記憶がクラブに積み重なる

CHAPTER 3|ライバルがいるから生まれる物語

5. ライバル関係もクラブの歴史になる

6. PonsonbyとGraftonが競った約100年

CHAPTER 4|Club Identityは今もつくられている

7. 新しい人が加わればクラブも変わる

8. 歴史を知ると試合の見え方が変わる

最後まで読めば、クラブの名前やジャージの向こう側にある、何世代もの人たちがつくってきた「そのクラブらしさ」を、より感じられるようになるでしょう。

CHAPTER 1|クラブにはそれぞれの歴史がある

1. 現在まで続く歴史あるクラブ

ニュージーランドにラグビーが広がり始めたのは、19世紀後半です。

New Zealand Rugby(NZR)が全国組織として設立されたのは1892年ですが、それより前から各地ではラグビーが行われ、クラブが生まれていました。

現在まで続くクラブの中にも、19世紀にルーツを持つところがあります。

例えばウェリントンのWellington Football Clubは1870年に設立され、現在も活動しています。

オークランドのPonsonby Rugby Clubは1874年、ウェリントン地域のPetone Rugby Football Clubは1885年に設立されました。

もちろん、NZにあるすべてのクラブが100年以上の歴史を持っているわけではありません。

それでもClub Rugbyの世界には、現在の選手が生まれるはるか前から、その地域で活動してきたクラブがあります。

一つのシーズンが終われば、また次のシーズンが始まる。

選手が入れ替わっても、クラブそのものは次の世代へ受け継がれていきます。

クラブの歴史とは、昔の出来事を並べた年表だけではなく、人から人へクラブが受け渡されてきた時間でもあります。

2. Club Identityとは何だろう?

ただ長く続いているだけで、クラブの個性が生まれるわけではありません。

それぞれのクラブには、長い時間の中で違うものが積み重なっています。

  • 活動してきた地域
  • クラブカラーやジャージ
  • 愛称やシンボル
  • 大切にしてきた言葉や価値観
  • クラブを支えてきた人たち
  • 記憶に残る試合やタイトル
  • 長年競い合ってきた相手

この記事では、そうしたものが重なって生まれる「そのクラブらしさ」をClub Identityとして見ていきます。

これはNZのすべてのクラブに共通する公式な定義がある、という意味ではありません。

クラブの歴史や文化を見るための一つの視点です。

前の記事では、地域の人々がクラブに関わり、そのクラブもまた地域との関係の中で存在していることを見てきました。

今度は時間軸を加えてみましょう。

地域との関係が何年、何十年と積み重なったとき、そこにはそのクラブにしかない物語が生まれていきます。

CHAPTER 2|「そのクラブらしさ」はどこに見える?

3. クラブカラーにも歴史がある

Club Rugbyを初めて見に行ったとき、最も分かりやすい違いの一つがジャージです。

しかし、その色にもクラブの歴史が隠れていることがあります。

例えばWellington Football Clubのクラブカラーは黒と金です。

クラブの記録によると、創設に関わったCaptain J.C.R. Isherwoodが、自身の所属していた連隊の色だった黒と金をクラブカラーとして与えました。

さらに、このクラブの色は後にウェリントンの黒と黄色という地域カラーにもつながったと、クラブ自身が説明しています。

一つのクラブが長く地域と歩む中で、クラブを表す色と地域を表す色が結びついていった例です。

Petone Rugby Football Clubにも、歴史を表すシンボルがあります。

1935年の50周年を機に採用されたクラブのモノグラムには、Māoriの言葉で「Kia Kaha, Kia Maia」と記されています。

Petoneは、このモノグラムがクラブとMāoriとの関係を反映するものだと説明しています。

こうして背景まで知っていくと、ジャージやエンブレムは単にチームを見分けるためのデザインではなくなります。

そこから、そのクラブがどんな時間を歩いてきたのかが見えてくることがあります。

4. 人の記憶がクラブに積み重なる

クラブの歴史をつくるのは、色やシンボルだけではありません。

そこに関わってきた人たちも、そのクラブらしさを形づくっていきます。

選手、コーチ、クラブ役員、ボランティア、家族、サポーター。

中には何十年も同じクラブに関わり続ける人もいます。

Ponsonby Rugby Clubでは、自分たちの歴史を詳細に記録する取り組みを続けています。

過去の新聞記事や試合記録だけでなく、代表選手、100試合以上出場した選手、Life Members、クラブ史に大きな足跡を残した人々などの記録を集め、デジタルで残しています。

クラブ自身も、その歴史について「ラグビーだけではなく、人々の物語でもある」という考え方を示しています。

  • 誰がプレーしたのか
  • 誰が長くクラブを支えたのか
  • 誰の名前が次の世代にも語られているのか

人の記憶を残すことも、「自分たちはどんなクラブなのか」を次の世代へ伝える方法の一つなのです。

前の記事で紹介したクラブルームに、歴代チームの写真やジャージ、人の名前などが残されていることともつながっています。

CHAPTER 3|ライバルがいるから生まれる物語

5. ライバル関係もクラブの歴史になる

Club Rugbyの歴史をたどっていると、もう一つ面白いものが見えてきます。

ライバル関係です。

同じ大会を長く戦っていれば、同じ相手と何度も対戦します。

  • 優勝を争った試合
  • なかなか勝てなかった相手
  • 忘れられない勝利
  • 何年経ってもクラブの中で語られる一戦

そんな試合が積み重なることで、特定の対戦に特別な意味が生まれることがあります。

オークランドのClub Rugbyを紹介するAuckland Rugbyも、クラブ、地域の人々、そしてライバル関係が毎週一緒になることを、この大会の特徴として紹介しています。

さらにGallaher Shieldについても、100年以上にわたり歴史、ライバル関係、誇りによって形づくられてきた大会と説明しています。

ライバルがいることで、勝ちたい理由が増える。

そして相手との歴史を通して、自分たちのクラブの歴史もより鮮明になっていきます。

6. PonsonbyとGraftonが競った約100年

その分かりやすい例が、オークランドのPonsonbyとGraftonです。

Ponsonby Rugby Clubが設立された1874年、その最初の対戦相手がGraftonでした。

Ponsonbyのクラブ史では、両クラブはオークランド中心部を挟む地域を背景に持ち、その後約100年にわたって激しいライバル関係を続けたと記録されています。

その間、当然ながら選手は何度も入れ替わっています。

しかし、対戦の歴史は次の世代へ残っていきました。

その関係の強さがよく分かる出来事があります。

第二次世界大戦中の1942年、選手不足のためPonsonbyとGraftonは一時的に合同チームをつくりました。

しかし1944年にそれぞれのクラブとして再び活動できるようになると、両者は別々のIdentityへ戻り、ライバルとしての対戦も再開しました。

戦争という非常時には一緒にプレーし、それが終われば再びライバルへ戻る。

一つの勝敗だけでは説明できない、長い関係がそこにあります。

ライバル関係も、一試合で生まれるものではありません。何世代もの対戦が重なって、一つのクラブの物語になっていきます。

CHAPTER 4|Club Identityは今もつくられている

7. 新しい人が加わればクラブも変わる

歴史あるクラブというと、「昔から変わらないもの」を守っているように見えるかもしれません。

しかし、クラブのIdentityは固定されたものではありません。

地域が変われば、そこに暮らす人も変わります。

そして、新しい人がクラブへ加われば、その人たちもまたクラブの歴史の一部になっていきます。

Ponsonbyの歴史には、その変化がよく表れています。

1960年代後半、Samoanの選手たちがPonsonbyへ加わり、クラブは当時オークランドで拡大していたPasifikaコミュニティとの強い関係を築いていきました。

Ponsonby自身の記録では、それによってクラブは多くのPasifikaの人々に選ばれる存在となり、その後50年以上にわたる選手やサポーターの基盤につながったとされています。

つまり、そのクラブらしさは過去から一方的に受け継がれるだけではありません。

新しく加わった人たちもまた、次の「そのクラブらしさ」をつくっていく。

Club Identityは、歴史を受け継ぎながら、現在も書き加えられているものなのです。

8. 歴史を知ると試合の見え方が変わる

初めて見るClub Rugbyの試合なら、最初は二つのチームが戦っているだけに見えるかもしれません。

でも、そのクラブについて少し知ってからグラウンドへ行くと、目に入るものが変わってきます。

  • なぜこの色のジャージなのか
  • クラブルームに飾られている人は誰なのか
  • なぜこの対戦には特別な意味があるのか
  • このクラブには、どんな人たちが加わってきたのか
  • そして、この地域でどんな時間を積み重ねてきたのか

スコアボードに表示されるのは、その日の得点です。

でも、その試合の後ろには、何十年、時には100年以上にわたって積み重なってきたクラブの物語があります。

その背景を一つずつ知っていく。

それも、NZのClub Rugbyを「見る」だけでなく、「知る」面白さの一つです。