「ニュージーランドのラグビー文化」と聞くと、オールブラックスやハカを思い浮かべるかもしれません。
でも、実際のNZラグビーの世界をたどっていくと、その文化はスタジアムの中だけにあるものではないことが見えてきます。
学校、クラブ、地域、家族、MāoriやPasifikaを含むさまざまな文化。そして、ラグビーを支える人たちの日常の中にも、NZラグビーがあります。
この記事では、試合や代表チームから少し視野を広げて、「なぜラグビーがニュージーランドの文化や社会とこれほど深く結びついているのか」をたどっていきます。
最後まで読めば、オールブラックスやハカだけでは見えてこない、ニュージーランドの人々、地域、歴史、文化とラグビーのつながりが少しずつ見えてくるでしょう。
CHAPTER 1|ラグビーはなぜNZ文化の一部なのか?
1. NZでラグビーはどんな存在?
ニュージーランドでラグビーは、単に人気のあるスポーツなのでしょうか。
もちろん、試合を見たり、応援したり、プレーしたりするスポーツです。
しかしNZRは現在の戦略で、ラグビーには人々を結びつけ、居場所や帰属意識を生み、コミュニティを強くする役割があるとしています。
地域のクラブから世界の舞台まで、人と人をつなぐことをラグビーの価値として明確に位置づけています。
つまり、NZラグビーを見るときには、
- 誰が勝ったのか。
- 誰がオールブラックスに選ばれたのか。
- 誰がそこに集まっているのか。
- どんな地域や人々とつながっているのか。
まで見てみると、別の世界が見えてきます。
ラグビーは「競技」であると同時に、人や地域がつながる場所でもある。
これが、NZラグビー文化を知る最初の入口です。
2. All Blacksとハカだけでは見えてこないもの
日本からNZラグビーを見ると、最も目に入りやすいのはオールブラックスでしょう。
- 黒いジャージー
- シルバーファーン
- ハカ
- 世界的なスター選手
もちろん、それらはNZラグビーを代表する重要な存在です。
しかし、そこだけを見ていると、その下や横に広がる世界を見落としてしまいます。
オールブラックスの選手にも、かつてプレーした学校があります。
クラブがあります。
地域があります。
家族があります。
そして、その選手を育てたり、支えたりしてきた人たちがいます。
トップレベルから地域へ視線を移していくほど、ラグビーは「スター選手を見る世界」から「さまざまな人が関わる世界」へと広がっていきます。
NZラグビー文化は、オールブラックスだけでつくられているわけではありません。
3. 「見るスポーツ」だけではないNZラグビー
ラグビーに関わる方法も、選手になることだけではありません。
- コーチ
- レフェリー
- マネージャー
- 保護者
- クラブを運営する人
- 試合の準備をする人
- 応援する人
さまざまな人が、それぞれの形でラグビーに関わっています。
NZラグビー文化は「誰がプレーしているか」だけではなく、「誰が関わっているか」まで含めて見ると面白い。
CHAPTER 2|地域の日常にあるラグビー
4. 学校、クラブ、地域にあるラグビー
ニュージーランドでは、ラグビーの世界がいくつもの場所に広がっています。
- 子どもたちのジュニアラグビー
- 学校ラグビー
- 地域のクラブラグビー
- 地域ラグビー協会(Provincial Union)が支える大会や代表チーム
- 州代表ラグビー
- スーパーラグビー
- 代表チーム
ただし、これは単純な一本の階段ではありません。
学校でプレーしながらクラブとも関わる。
クラブで育った選手が地域代表になる。
プレーを終えた人がコーチとしてクラブへ戻る。
親になって、今度は子どものラグビーを支える。
そんな形で、人とラグビーの関係は続いていきます。
だからNZラグビーを理解するときには、「選手がどこまで上へ行くか」だけでなく、「ラグビーがその人の生活の中でどう続いていくか」という見方もできます。
5. クラブはラグビーをする場所だけではない
NZのクラブは、単なる「チーム」ではありません。
- 練習する。
- 試合をする。
- 試合後に集まる。
- 子どもから大人まで顔を合わせる。
- コーチやボランティアとして関わる。
クラブによって形は違いますが、ラグビーを中心に人が集まる場所でもあります。
だからこそ、クラブの価値を勝敗や所属選手のレベルだけで測ると、その一部しか見えません。
クラブはラグビーをする場所であると同時に、人と地域が出会う場所にもなり得る。
6. 選手だけではラグビーは成り立たない
週末に一つの試合を成立させるだけでも、選手以外の多くの人が必要です。
- コーチがいる。
- レフェリーがいる。
- チームを運営する人がいる。
- 子どもを連れてくる家族がいる。
- グラウンドやクラブを維持する人がいる。
- 地域大会を運営する人もいます。
- テレビで見るラグビーでは選手が中心ですが、地域へ行くほど、ラグビーを支えている人たちの存在が見えやすくなります。
これはNZラグビーを「プロスポーツ」として見るだけでは分からない部分です。
CHAPTER 3|「自分たちのラグビー」が重なる世界
7. 学校、クラブ、地域、それぞれにある所属意識
NZラグビーには、一つではない「自分たちのチーム」があります。
- 自分の学校
- 自分のクラブ
- 自分の地域
- 自分が応援するスーパーラグビーのチーム
- ニュージーランド代表
もちろん、すべての人が同じようにそれぞれへ強い愛着を持っているわけではありません。
それでもNZラグビーの構造をたどると、複数の所属やつながりが重なっていることが見えてきます。
例えば、ある選手をオールブラックスで知ったとします。
- そこから出身校へ。
- クラブへ。
- 地域へ。
- 州代表チームへ。
- さらに家族や地域のラグビー史へ。
一人の選手をたどるだけでも、NZラグビーの別の世界へ入っていくことができます。
8. 地域への誇りとライバル関係
この「自分たちのラグビー」は、NZラグビーの歴史にも深く関わっています。
州代表ラグビーでは、地域同士のライバル意識や地元への誇りが、長い間ラグビー文化の一部になってきました。
Ranfurly Shieldの歴史をたどると、全国的には小さな地域が、一つの試合によって大きな注目を集めることもありました。
つまり、NZ代表を応援する国としての一体感だけでなく、自分たちの地域を応援するローカルな誇りも存在してきたのです。
ここが面白いところです。
NZラグビー文化は「ニュージーランド」という一つの大きなアイデンティティだけでできているわけではありません。
その中に、いくつもの地域の物語があります。
9. whānau――人とのつながりからラグビーを見る
ここで一つ、Māoriの言葉を知っておくと、NZラグビーを見る視点が少し広がります。
whānau(ファーナウ)。
まず日本語では「家族」とすると分かりやすい言葉です。
ただし文脈によっては、血縁だけでは説明しきれない、人と人とのより広いつながりを含んで使われます。
これは「NZのラグビーチームは全部家族のようなもの」という意味ではありません。
そう単純化するのではなく、ラグビーを見るときに、個人だけでなく、その人を取り巻く家族や人とのつながりにも目を向けるための一つの窓になります。
現在のNew Zealand Māori Rugby Boardの戦略でも、whakapapa、whānau、whenuaは Māori rugbyを考えるうえで重要な要素として掲げられています。
- 一人の選手だけを見る。
- そこから、その人が誰とつながり、どこから来たのかまで見る。
それだけでもNZラグビーの見え方は変わってきます。
CHAPTER 4|MāoriとPasifikaから見えるNZラグビー
10. MāoriはNZラグビー文化をどう形づくってきた?
MāoriとNZラグビーの関係を、「オールブラックスがハカをするから」とだけ理解するのは十分ではありません。
Māori rugbyには長い歴史があります。
1888年にはNew Zealand Nativesが結成され、国内だけでなく海外でも試合を行いました。
現在のMāori All Blacksにつながる歴史の重要な一部です。
現在もNew Zealand Māori Rugby Boardが存在し、Māori rugbyの育成や発展を担っています。
そしてこの組織は、26の地域ラグビー協会とは別に、NZRの正式な加盟メンバーとして位置づけられています。
Māori rugbyは文化的な象徴として存在するだけでなく、NZラグビーの組織構造の中にも正式な位置を持っている。
Māoriは、NZラグビーに「文化的な色」を加えているだけの存在ではありません。
Māoriの選手、組織、歴史、価値観そのものが、NZラグビーを形づくってきました。
この視点を持つと、ハカの見え方も少し変わってきます。
11. whakapapaとwhānauから見えてくるもの
Māori All Blacksの記事でも登場したのが、whakapapa(ファカパパ)です。
日本語では「系譜」「祖先からのつながり」とすると、入口として理解しやすいでしょう。
Māori All Blacksでは、選手にMāoriのwhakapapaが確認されることが代表資格として求められています。
そして先ほどの、whānau(ファーナウ)。
家族や人とのつながりです。
現在のMāori Rugby Strategyには、さらにwhenua(フェヌア/土地)も並んでいます。
ここでMāori語をたくさん覚える必要はありません。
大切なのは、
ラグビーを「一人の選手の能力」だけではなく、その人の祖先、人とのつながり、場所まで含めて見る考え方がある。
と知ることです。
ラグビーから一つの言葉を知る。
その言葉から、NZ社会や文化を少し知る。
これもNZラグビーをたどる楽しみ方の一つです。
12. Pasifika culturesとNZラグビー
NZラグビーを文化という視点から見るなら、Pasifikaの存在も欠かせません。
ただし、「Pacific系の優れた選手が多い」という話だけで終わらせると、大切な部分を見落としてしまいます。
Pasifikaの人々は、選手だけでなく、
- コーチ
- レフェリー
- 運営
- ボランティア
- 地域のリーダー
など、さまざまな形でNZラグビーに関わってきました。
一方でNZR自身が、特に選手以外の領域では、Pasifikaの代表性や育成機会などにまだ課題があることを認識しています。
大きな貢献があることと、すべての場所で十分な機会があることは同じではありません。
ここは、NZラグビーを理解するうえで大切なポイントです。
また、MāoriとPasifikaを一つの文化として扱うこともできません。
それぞれに異なる歴史、文化、コミュニティがあります。
NZラグビーを知ることは、ニュージーランドという国の多様さだけでなく、その中にある課題や変化を知る入口にもなります。
CHAPTER 5|ラグビーはNZ社会を映す鏡でもある
13. ラグビーは人をつなぐだけではなかった
ここまで読むと、「NZではラグビーが人と人をつないできた」という、とてもきれいな話に見えるかもしれません。
しかし、歴史をたどると、それだけではありません。
ラグビーはときに、NZ社会の対立や矛盾が表れる場所にもなってきました。
その代表的な例が、南アフリカとのラグビー交流です。
アパルトヘイトによる人種隔離政策が存在した南アフリカへ遠征する際、ニュージーランドのラグビー協会は長年Māori選手を選出しませんでした。
1928年の遠征では、George NēpiaのようなMāori選手も南アフリカへ行くことができませんでした。
1960年の遠征でもMāori選手は選ばれず、これに反対して15万人を超えるニュージーランド人が請願に署名しました。
そのとき掲げられた言葉が、「No Maoris – No Tour」でした。
それでも、1960年の遠征は実施されました。
1970年にはMāori選手も南アフリカへ遠征しましたが、現地では「honorary whites(名誉白人)」として扱われました。
そして1981年。
南アフリカ代表SpringboksのNZ遠征を受け入れるかどうかをめぐり、ニュージーランド社会は大きく揺れました。
- アパルトヘイト下の南アフリカとスポーツ交流を続けることに反対する人たち。
- スポーツと政治は分けるべきだと考える人たち。
- 交流を続けることが南アフリカの変化につながると考える人たち。
つまりこれは、「南アフリカに問題があり、NZはそれに反対した」という単純な物語ではありません。
人種差別に対してスポーツはどう向き合うべきなのか。ラグビーを続けるべきなのか。ニュージーランド人自身の考えも大きく割れました。
ラグビーが社会の中心に近い存在だったからこそ、人種、政治、公平性といった大きな問題も、ラグビーを通して表面に現れたのです。
ラグビー史を知ることが、その時代のNZ社会を知ることにもつながります。
14. 勝つことだけがNZラグビー文化ではない
もちろん、勝つことはNZラグビーにとって重要です。
世界のトップレベルで勝つことを目指す代表チームがあります。
しかし、その一方で地域のラグビーを維持し、人々が参加できる環境をつくり、コミュニティを支えていくことも現在のNZラグビーが掲げる重要な方向です。
つまり、
- 世界のトップで勝つこと。
- 地域でラグビーが続いていくこと。
その両方がNZラグビーの中にあります。
週末に地域のグラウンドでラグビーをする子どもたちと、世界の舞台でプレーするオールブラックス。
一見すると遠く離れた世界に見えます。
でも、その両方を見ていくことで、NZラグビーの全体像が少しずつ見えてきます。
15. ラグビーからニュージーランドを知る
NZラグビーを知っていくと、最初は想像していなかった場所まで世界が広がることがあります。
- オールブラックスから、クラブへ。
- クラブから、地域へ。
- Māori All Blacksから、whakapapaへ。
- whakapapaから、Māoriの歴史や文化へ。
- Pasifikaの選手から、家族やコミュニティへ。
- Springboksとの歴史から、人種や政治をめぐるNZ社会の対立へ。
一つのラグビーの話から、その奥にあるニュージーランドが少しずつ見えてきます。
ラグビーは、ニュージーランドを知るための一つの窓でもある。
だからNZラグビーの面白さは、試合が終わったところで終わりません。
- 選手を知る。
- チームを知る。
- 地域を知る。
- 歴史を知る。
- 文化を知る。
- そして、そこにいる人たちを知る。
知れば知るほど、ラグビーの向こう側にあるニュージーランドまで見えてくる。
